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6.パンク・温古堂ものがたり・操体医学研究所 今治療室     翁先生・温古堂ものがたり・操体医学研究所 今治療室

笑顔の似合う20才のOLさんだ。
1ヶ月前に温古堂に来た時は腰に手を当てて、ヒクヒクして歩いて一回で治ってしまって、ただただびっくりして帰った。

今回は首を押さえて「寝違えちゃってェ」とまた治してもらうつもりらしい。
歩き方をチラッと見ると、左足がうまく前に出なく、腰がグッと反りかえっている。
本人は首だけ治してもらえば……と思っているのだろうが、こっちはそうはいかない。


仰向けに寝てもらい、一応形態観察だ。
誰が見ても分るように左足が内側にねじれ、腰が反りかえっている。
もちろん肩や首もシッチャカメッチャカに変化している。
そして一番目についたのが、恥骨がガクッと下がっている、という所だ。

私は「足を治さないとダメだなぁ」とブツブツ言いながら、いたずらにこんな質問をするのだ。
「○○さんは自動車運転するの?」と聞くと、OLさんは「ハイ、しますよォ。昨年免許取って……」とニコッと笑う。
私としては免許の話しなどどうでもいいのだ。

そして私は「タイヤがパンクすると、ハンドルはガタガタになるでしょう」と、ハンドルを持った格好をして、両手を大袈裟にガタガタゆらしてみせるのだ。
「このハンドルがあなたの今の首ですョ、ね! だからパンクしてるんですよ、この足が」と言いながら、私はパンクの修理にとりかかるのだ。

「はい、膝を立てて下さい」と、いつものように膝ウラのパンク穴を見つけ出す。
「ほーら、ここがパンクしてるんだ!」と言いながら、しこりをグッとおさえる。

「いたいっ!」

と彼女のつま先が上がり、私の内モモを突く。
と同時に恥骨がピクッと上がって落ちた。
これをよォーく覚えておくと、あとでうーんと役に立つ。

そしてパンク穴ののり付け作業が始まる。


私は「はい、つま先をスウーッとそり上げて下さい」と言いながら、右手で膝ウラのしこりが消えるのを確かめて、「ほら、こうしてつま先上げていると、この痛みがなくなるでしょう」と言って、さっきのしこりがあった場所をくりくりとおさえてみる。

するとOLさんは「はい、なくなったみたい?!」と目をパチクリさせてつま先を上げている。
そして「はい、おしりも少し浮いてきていいですょー」と言うと、さっきの恥骨がスゥーッと浮いてくる。
「苦しくないですか」と問い質すとOLさんは、「腰が伸びてキモチイイです」と言う。

そして三〜四秒経っただろうか。
「ハイ、おしりとつま先を落とすように、ハイストン」と力を抜いてもらった。

うーんと上手に抜けたようだったが「どうだった、キモチヨカッタ?」と念をおす。
とOLさんは「ハイ」と、安心したような表情で天上を見つめる。

「もっとやってみたい感じする?」と聞きながら、やってみたいだけやった。

三回目が終わるとOLさんは「もういいみたい」と言う。
そこでまた膝ウラのしこりを探ってみたら、もうほとんどなくなってしまっていた。

これでのり付け終了。
今度はタイヤに空気を入れることになるのだ。


うつ伏せになってもらい、顔は楽な方に向いてもらう。
私はカカトをおしりにくっつけるように曲げてみた。

「右の感じと左の感じ、どっちがつらいですか?」とゆっくり曲げてやる。
このOLさんは、ペタペタとカカトが楽に付く。
しかし「左足を曲げられると、腰のあたりが少し苦しい感じがします」と言う。
私は少しぐらいだったら、まぁいいやと思い、この動きはやらないことにした。

それよりも「カエルさん操法」をやってみようと、内心さっきから思っていたからだ。

画像・温古堂ものがたり・操体医学研究所 今治療室


「では、この右膝を脇の下の方にゆっくり引っ張ってみて下さい」。
するとOLさんは、ズリズリと上がりにくそうに上げた。
表情にも余裕がない。


「苦しい時は無理しなくていいですよ、はい、おろして……。今度は左膝をスウーッと引っ張ってみてー」。
OLさんの足がスススーッとスムーズに上がっていく。
私は「左足上げる方が楽でしょう」と言い当てるのだ。
するとOLさんは「ハイ、こっちの方が上げやすいです」と、自分の感じを私が言い当てたことにオドロイテいる様子だ。
さすがに私の目は確かだ、と誰が見ても分かるようなことに自信を深めるのだが、後でハズレルことになるのだ。

私は「ハイ、そのままこの左膝引っ張ってェ」と言いながら、足首のあたりを支えている。
「大丈夫ですかー」と聞くと「ハイ」と返ってきた。
「そのまま引いててよー」と言いながら、良さそうだなと思った所で止めている。

「腰の力を抜くつもりで、ハイストン」。
抜き方がちょっとおかしいな、と思いつつ「大丈夫だった?」と尋ねると、OLさんは「ハイ」と言う。
だから「もう一度引いてみてェー」と続けて二回やった。

そして今度は右膝を引いてもらった。
「今度はどうですか」と聞くと「まだつらいです」とギコチナク動かす。
変化していない。

二回くらいやっても変化しないような時は、五回やったって同じで、今度は左膝を引き上げている格好から、下に踏み込むようにしてやってもらった。

私はOLさんのカカトのあたりを手で支えながら「腰を自由に使ってキモチイイように動いて、いい格好に自分で作ってみて下さい」と言うと、OLさんの体がきれいに連動して、全身で動いているように見える。

私はこれだな!と思い、さらにカカトの支えに安定をはかり、腰に快感をうながす。

「ハイ、腰の力を抜くつもりで、ハイカクン」。
OLさんからため息がもれた。
つぶれるようにうまく抜けた。

「どうでした?」と聞くと「腰のあたりから背中の方まで、背骨が一本になったようでキモチよかった」と言う。
これ一回でやめた。

そして右膝を引かせたら、スススーッとスムーズに上がるようになった。
この人にはこの操法が一番効いたな!と思った。


そして「立って歩いてみて下さい」と言うと、ムックリと起き上がり、肩とか頸のあたりをちょこちょこ動かして「治りました!」とニッコリ笑ってる。

私は「やっぱりパンクしてたんだね、自分でも家でやれば出来るんだから、段々覚えてやって下さいよ。自分で治せるようになったら、ここ(温古堂)に来なくてもいいんだし、お金もかからないでしょう!」

と言うと、また悪くなったら来ればいいんだ!ってな顔で「ハイ、わかりました」と猛スピードで夕方の仙台の街に消えていった。

 

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初出 研究誌「操体 SOTAI」1986年
『操体法治療室』三浦寛・今昭宏/共著 第一章「温古堂ものがたり」  たにぐち書店
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